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福岡地方裁判所 昭和34年(行)5号 判決 1960年9月27日

原告 谷口商事株式会社

被告 福岡税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告訴訟代理人は、「被告が昭和三三年八月二九日原告に対してなした金五九一、一二〇円の物品税賦課決定処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、被告指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。

二、原告訴訟代理人は、その請求原因として、

1、原告はビニール製品及び食料品の販売を目的とする会社であるが、被告は昭和三三年八月二九日原告に対し、原告が昭和二九年九月二八日より昭和三三年二月一日に至る間物品税法(以下法と略称する)一条一項の第二種戌類五一グルタミン酸ソーダーを主成分とする調味料七三、四五六袋、その課税標準額金五、九一一、二〇〇円を製造移出したものであるとして金五九一、一二〇円の物品税を賦課する決定処分をなした。

2、しかし乍ら原告は右のような物品の製造をした事実はないので昭和三三年九月二六日被告に対し、再調査の請求をしたが、被告は同年一一月二二日これを棄却する旨の決定をし、該決定は同月二五日原告に送達された。よつて原告は更に同年一二月一七日福岡国税局長に対し、審査の請求をしたが、同局長はそれより三ケ月を経過するも何らの決定をしないで、原告は被告のなした前記物品税賦課決定処分の取消を求めるため、本訴に及んだ次第である。

と述べ

被告指定代理人は、

三、答弁として、

原告の請求原因事実は、そのうち原告がその主張の物品を製造しなかつたという点を除いて全て認める。

と述べ

四、被告の主張として、

1、原告は所管税務署長である被告に対し、法一五条に規定する第二種物品の製造開始申告をしないで右第二種戌類五一号グルタミン酸ソーダを主成分とする調味料である訴外味の素株式会社製品の銘柄「味の素」、訴外旭化成工業株式会社製品の銘柄「旭味」及び、訴外味の世界株式会社製品の銘柄「味の世界」をそれぞれの販売店からいずれも一キログラムポリエチレン袋入り単位で仕入れ、これを昭和二八年九月以降、昭和三三年二月までの間に福岡市花園本町一五〇番地所在の原告会社において小型ポントを使用して五〇グラム入ポリエチレン製化粧小袋に詰め替え、銘柄「主婦の素」として昭和二八年九月二八日から昭和三三年二月一日までの間に訴外福岡県婦人会生活協同組合(以下生協と略称する)並びに訴外林田ツユノ外五名の個人に対し合計七三、四五六袋、価格合計金六、五〇二、三三二円をもつて移出販売したものである。

2、原告が右のように調味料を小分けして化粧小袋に詰め替えた行為は、法六条二項にいう製造場以外の場所において、販売のため、同項により委任された法施行規則一六条所定の物品を容器に充填し、かつ改装したものであつてあつて、その物品の製造と看做されるものである。

3、しかして原告は前記のとおり第二種物品である右調味料を製造場より移出したものであるから、課税原因発生したものであり、従つて被告はこれに対し物品税を課すべく昭和三三年八月二五日移出価格を金六、五〇二、三三二円と認定し、これには物品税相当額を含んでいるものと認めたがその計算が明確でないので、物品税基本通達(昭和二八、一二、二一、間消二―九三国税庁長官)四七条の規定により右移出価格に百十分の百を乗じて(百円末満切捨)課税標準額を金五、九一一、二〇〇円とした上、税額としてその百分の十を乗じて金五九一、一二〇円を算出し、これが賦課決定をなしたものであつて、この処分には何ら違法の点はない。

と述べ

五、原告訴訟代理人は被告の右主張に対し、

1、原告が被告主張のような製造開始申告をしていないこと、グルタミン酸ソーダを主成分とする調味料である被告主張の各会社製品をその主張の訴外各会社から仕入れたこと(但しこれらの製品は一キログラム化粧器入りで物品税課税済の既に流通過程におかれた商品である)、これをその主張の期間中、その主張の場所において、五〇グラム宛に小分けして小袋に詰め替えたこと(但し、右小袋は当初は紙袋、昭和二九年頃からセロフアン袋であり昭和三〇年八月頃から被告主張のポリエチレン製化粧小袋を使用するようになつたものである)、右小分けしたものを被告主張の期間にその主張の数量をその主張の如き価格で生協へ納入したことはいずれも認めるが、その他は全て否認する。

2、右小分けした調味料の納入先は生協だけであつて、被告主張の林田ツユノ外五名の個人はいずれも各地区婦人会長兼生協支部長の地位にあるもので、当該生協支部組合員の要求により、原告が生協を通じて納入したものである。

又調味料を詰め替えた前記小袋には昭和二九年頃から「主婦の素」なる名称を表示するようになつたが、これは需要者である生協自らが組合員たる家庭の主婦のための調味料という意味で付けた名称であつて、原告は生協の要求に従つてこれを小袋に表示したに過ぎず、「商品の市場における通称」という意味での銘柄ではない。換言すれば右名称は生協組合員にそれが生協取扱にかかる品物であることを認識させ、かつ特定させるという作用を有するに過ぎないものであつた。

3、なお生協に小分けした調味料を納入するに至つた経緯は次のとおりである。即ち昭和二七、八年頃から、原告は生協よりその組合員たる家庭の主婦向き実用商品はないかと再々相談を受けていたが昭和二八年九月頃婦人会の会合の際割安の価格で市販されている一キログラム容器入「味の素」の計り売りを試みに実施したところ、小量を廉価で購入し得るため非常な好評を博したので、生協は爾後継続的に生協の事業として原告をして一キログラム入り「味の素」を奉仕的に予め五〇グラム程度に小分させ、それを生協が一括して買い入れ、廉価に組合員に販売することを決定し、原告にその旨要求したのである。

4、次に法六条二項において製造と看做される「販売のため容器に充填し又は改装する」行為とは、原材料に物理的操作又は化学的変化を加えて新たな物品を製造した者、いわば物品実質の製造者がその物品を市場に流通し得べき消費材、即ち商品として完成する行為であつて、同項の法意は、第二種物品について法が製造場より移出するときの物品の価格をもつて課税標準としている関係上、ある商品の製造工程中最後の包装が物品実質の製造場以外の場所で行われるような場合に、もし右製造場より移出する時(即ち商品としては未完成の時)の価格を課税標準とすると他の場合との権衡を失すると共に消費税たる物品税の理想にも反する結果になるので、このような場合には、前段階の物品実質の製造は課税上製造とはみないで最終段階の包装等をもつて製造と看做し、その場所から(完成品として)移出するときの価格を課税標準とするというところにある。従つて同項は右の場合のみに適用されるべきであつて原告のように物品実質の製造者以外の者が同項の行為をなしたとてその行為が製造とみなされるものではない。又このように解しなければ、本件の場合既に製造業者において物品税を納税の上流通過程に入つた物品を原告が仕入れ、それを更に容器に詰め替えただけで(そこに何ら商品価値の増加も認められないのに)製造と看做され、ために原告が納税義務者として更に物品価格の一割を納税しなければならないのであるから二重課税となること明白であり、消費者負担の建前上、ひいては最終消費者は二割の物品税を負担することになり、第二種戌類物品の物品税率は一割と定められた法二条一項に違反することになるのである。

5、次に「容器に充填し、又は改装する」ことが製造と看做されるためには、それらの行為が「販売のため」になされることが必要である。然るに販売とは物品を自己の商品として流通過程におくことを意味すると考えられるから、本件のように特定の者の指図に従い、物品にその者の商品であることを示すべき商標その他の文字を表示してその者に納入する場合は右にいう販売には該当しない。この点からいつても原告の本件行為が製造と看做されることはない。

6、法六条は昭和三四年法律第一五〇号物品税法の一部を改正する法律(同年五月一日施行)で改正され、その第三項(改正前の第四項)に「・・・又は自己のみの商標を表示すべきことを指示して第二種若は第三種の物品を製造せしむるものは之を・・・其の指示を受けたる者の製造したる物品の製造者と看做し当該物品は之を・・・其の指示を為したる者の製造したるものと看做す」という規定が新たに加えられたが、右規定によつて始めて本件の生協と原告との関係のような場合にも納税義務があり、その場合の納税義務者が誰であるかにつき規定されることになつたものというべく、本件は右改正前のことであるから、原告は何ら納税義務を負わないものである。

と述べ

六、被告指定代理人は、原告の右主張に対し、

1、原告が一キログラム単位で他より仕入れた本件各調味料が課税済であることは認めるが、その他は争う。

2、法六条二項の法意は、通常物品の製造といわれるいわば物品実質の事実上の製造ではないが、同項所定の行為によつて物品の商品価値が上昇するので、消費税の性質上、消費者に入手される時における状態価値に対する課税を考慮してその行為を同法上製造と看做すこと(法定製造)としているのである。従つて原告の主張するように、原材料に何らかの操作をなし、又は変化を加えて新たな物品を製造するいわゆる物品実質の製造者が、その製造場以前の場所においてなす場合のみに同項の適用があるのでなく、何人でも同項所定の行為をなすときはそれは当該物品の法定製造となるものである。

以上のように解すると、成程原告主張のように二重課税にもなり得るがこれの緩和のために物品実質製造場から移出する際に法一二条、法施行規則二四条一項による原材料免税の承認を得る道が開かれているのである。尤もその前提として、第二種物品の製造をしようとする者は所属税務署長に対し、法一五条、法施行規則四条一項による製造開始申告をしなければならないのであるが、原告は前記のとおり申告をなさず、ひいては原材料免税の規定の適用を受けるに必要な手続上の措置を講じていないのであるから、製造された物品に対し二重課税となつても止むを得ない。

3、法六条二項にいう「販売のため」とは、特定の者に対すると不特定の者に対すると又は卸売であると小売であるとを問わないのであり、仮に原告が生協のみに卸売したとしても販売であることを妨げない。

4、法六条は、原告主張のとおり昭和三四年法律第一五〇号物品税法の一部を改正する法律をもつて改正されたが本件課税処分はこの改正法律施行前の原因事実に基くものであつて、同法附則二項によりなお改正前の規定によるべきものである。しかして改正前の法六条二項の解釈上、本件の場合に仮に生協から要請されて包装にその商標、名称等を表示したとしても、その製造行為は原告独自の行為であり、かつ、製造された商品はその状態においてすでに消費者の消費する状態を形成しているのであるから、原告の本件行為は右同項に該当するものと解すべきである。

と述べた。

七、証拠<省略>

理由

一、当事者間に争のない事実に、原告作成の小袋の写真であること当事者間に争のない甲第一号証、証人矢野隆已の証言及び文書の形式によつて真正に成立したことの認められる乙第一、二号証、第四ないし八号証(第八号証中後記措信しない部分を除く)の各記載並びに証人梅根蔵之助、進登和子(後記措信しない部分を除く)及び谷口政介(第一回)の各証言を総合すると次のような事実が認められる。

原告はビニール製品及び食料品の販売を目的とする会社であるが、昭和二八年九月頃かねて取引のあつた訴外福岡県婦人会生活協同組合(以下生協と略称する)から、その組合員たる家庭の主婦向き実用商品の斡旋依頼を受け、試みにグルタミン酸ソーダを主成分とする調味料である訴外味の素株式会社製品の銘柄「味の素」の一キログラム容器入を予め五〇グラム宛に小分けして生協に納入したところ、小量を廉価で購入し得ることから、組合員の好評を博したので、生協の求めに応じて爾後継続的にこれを納入することとなつた。

このようにして原告はその後右「味の素」の外、同じくグルタミン酸ソーダを主成分とする調味料である訴外旭化成工業株式会社製品の銘柄「旭味」を一キログラム容器入単位で、訴外味の世界株式会社製品の銘柄「味の世界」を一キログラムポリエチレン袋入単位でそれぞれの販売店より仕入れ、これを生協に納入するため、昭和二八年九月以降昭和三三年二月までの間に福岡市大字春吉(通称花園本町)一五〇番地の原告会社事務所において小型ポンドを使用して五〇グラム宛小分けし、当初は紙製小袋に、次いで昭和二九年頃からセロフアン製小袋に、その後昭和三〇年八月頃からポリエチレン製化粧小袋に詰め替えて、昭和二八年九月二八日から昭和三三年二月一日までの間に生協及び生協を通じて六名の組合役員に対し、合計七三、四五六袋価格合計金六、五〇二、三三二円をもつて納入したが、右に関し、所轄税務署に対し、物品税法(以下法と略称する)一五条に規定する第二種物品の製造開始申告はしていない。なお、その間右小分けした調味料につき昭和二九年頃から生協の役員と相談して「主婦の素」なる名称を付けることとしその旨を生協のマークと共に包袋に表示した。ところで被告は、原告が右のように前記調味料を五〇グラム宛小分けして小袋に詰め替えた行為を以て法六条二項により右調味料の製造と看做されるものであり、これを生協等へ納入したことによつて課税原因が発生したとして右調味料の課税標準額を金五、九一一、二〇〇円と認定した上、原告に対し物品税として金五九一、一二〇円を賦課する決定処分をした。

原告はこれを不服として昭和三三年九月二六日被告に対し、再調査の請求をしたところ同年一一月二二日これを棄却する旨の決定を受け、該決定は同月二五日原告に送達されたので、更に原告は同年一二月一七日福岡国税局長に対し、審査請求したが爾来三ケ月以上を経過するが何ら決定を受けていないものである。

乙第八号証の記載並びに証人進登和子の証言中以上の認定に反する部分は措信しない。

二、そこで原告が前記のように、既に当初の製造場より移出されて市販されている前記各会社製品の調味料を大型容器入等を以て各販売店より仕入れ、右製造場以外の場所である原告会社事務所において生協へ納入するためこれを五〇グラム宛に小分けして小袋に詰め替えた行為を以て法六条二項により製造と看做されるものであるか否かについて考えてみると、

1、先づ原告が大型容器入の前記調味料を小分けして小袋に詰め替えた行為が同項にいわゆる容器に充填しかつ改装したものであることは明らかであり、かつ同項は何人でも同項所定の物品を当初の製造所以外の場所において販売のため容器に充填し、又は改装した時は新たに当該物品を製造したものと看做される旨規定したものと解するのを相当とするから、原告の前記行為は同項により当然製造と看做されるものというべきである。

2、この点につき原告は同項の適用あるのは、当初の製造者についてのみであると主張するが、法文上何らこのような制限がないのみならず、同項には製造と看做される行為につき容器に充填する行為の外改装する行為をも規定しており、このことは当初の製造者以外の者にも当然同項の適用あることを前提としていると解されるのである。又実質的に考えても、当初の製造場から移出した後、これを他の場所において他の容器に詰め替え、又は包装を改めるような場合には、その行為によつて商品価値に異動あることは明らかであり、この点に着目してかかる行為を新たな製造と看做し、それ以後の消費者の消費する状態で課税することは消費税の本質からして当然のことというべきである。

3、尤も以上のように解すれば、原告所論のように二重課税となるかの如く考えられるのであるが、この点は法一五条、法施行規則四条一項により所轄税務署に対し、製造開始申告をしておけば当初の製造場から移出する際に法一二条法施行規則二四条一項による原料免税の承認を得る道が開かれているのであつて、何ら不都合は生じないのである(本件の場合は前記認定のとおり原告が右申告をなさず、ひいては原料免税の規定の適用を受けるに必要な手続上の措置を講じていないのであるから二重課税となるのも止むを得ないところである)。

4、次に原告は本件調味料の小分け詰替は「販売のため」にしたものではないから同項の適用はないと主張するるのであるが、同項にいう「販売のため」とは、特定の者に対すると不特定の者に対するとを問わず他人に有償で譲渡する目的を以て足り、たとえその譲渡行為が譲受者たる特定の者の指図に基き、かつ物品に右の者の取扱う商品であることを示すべき商標その他の文字を表示して納入する場合であつても妨げないと解すべきであるところ、原告は前記認定のように本件調味料を有償で生協へ納入する目的で小分け詰替行為をなしたものであるから、その納入先が専ら生協のみであつたにせよ、又その包装に生協の指示によりその取扱商品たることを示すため生協のマークを表示したにせよ、「販売のため」であつたことは明らかである。

5、なお法六条は原告所論のとおり昭和三四年法律第一五〇号物品税法の一部を改正する法律をもつて改正され同条三項に原告主張の如き規定が追加され昭和三四年五月一日から施行されたことは当裁判所に顕著なことであるが、改正後の右規定をもつて改正前の同条二項を原告主張のように限定して解釈すべきではなく右同項はさきに説示のとおり、解するのが相当である。

三、然らば原告がさきに認定のとおり、小分けして詰め替えた本件調味料を前記原告会社事務所より生協に納入したのは法六条二項により製造と看做された物品を法三条一項にいわゆる製造場より移出したものであつて、同項により課税原因が発生したものといわねばならず右と同一の見解に立つて被告がその主張の如き計算をもつて物品税額を算出した上、原告に対しこれが賦課決定処分をなしたのは正当である。

以上のとおりで原告が法六条二項につき独自の見解を前提として被告の本件課税処分の適否を争い、その取消を求める本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川井立夫 渡辺桂二 佐藤安弘)

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